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2012.03.23

「3月のライオン」7巻

3月のライオンは始まった時点で「取り戻していく物語」という紹介がつけられていて、主人公が棋士の少年というところから、漠然とハチクロのような自分探し、兼、芸の求道の物語になるのだろうと思っていました。

それが、6巻7巻まで来たところで扱ってるテーマが、いじめ問題ですよ。

いじめ。
それはとてもデリケートで難しく一概に語れず双方の善悪もつけ難く、責めると傷つき励ますと落ち込み手を差し伸べると払われ何もしないと取り返しがつかないような!
あまりに複雑で繊細ゆえに、個々に思うところはあれど口に出して語ることすら昨今でははばかられるような!
恐ろしく深刻な社会的問題ですよ。

そしていじめを題材にしたフィクションは大抵、いかにそのいじめが酷いかを執拗に描写するため読んでいても吐き気がもよおされ、それを取り返すべく後半でいじめた人間が必要以上に罰を受けまくるか、それともいかにも現実らしさを装って被害者以外はまったく何も変わらず現実が続いていくかが多いような。

そんな領域にウミノさんがいきなり正面から踏み込んでいったのには目を疑いました。


結果。
話の上で最も苦しい、ひなちゃんの辛い日々には、主人公をしょって立つ零くんが、時にはピエロになり、時には王子様になって救いに登場。
そして決してうやむやにしないように、最後に何人も大人が現れ、こどもたちの心をひとつひとつ引き取っていく。

連載を読んでいたときは一話ごとに泣けると思っていましたが、ひとつの巻として構成されたあまりに圧倒的な一連の描かれ方に、単行本を読むと戦慄する思いがします。


3月のライオンはウミノさんの呼びかけで、ネットでたくさん感想が投げかけられるのですが、ちょうどひなちゃんと同い年くらいの子の感想だと
「ひなちゃん強い」「先生がいい人で良かった」「いじめっ子が全然反省してない」
みたいな風にこの話を「分かって」いるのが面白い。
ものすごく深い話なんだけど、その部分を分からなくても、ちゃんと話が漫画として「分かって」いる。
そしてきっといつかその子達が大きくなって読んだときに、きっとこの漫画はもっと違う形で「分かる」。

今回の話の一番すごいところは、「お友達をつくる3つのステップ」かもしれない。
最初に動物のお友達をつくる。
次に年が上のお友達をつくる。
最後に年の近い友だちをつくる。

心が傷ついたときには、自分より弱い者を傷つけたくなる。そして年の離れた人は、絶対に自分の気持ちを分かってはくれないと思う。そして自分に近い者の中で自分を解ってくれる人を探しに行く。
でも、自分と同じように未熟で、立っている所がほぼ同じだからこそ細かいところまで比べてしまう年の近い人は、本当はいちばん仲良くなるのは難しい。
弱い動物に優しくして仲良くなれば、自分に自信がつく。年上の人と仲良くなって可愛がってもらえば、他人が怖くなくなる。
確かにそういうステップを踏めばいいのだ。大人になった私はこのステップのあまりの的確さに息を飲む。
どこかで今夜ひとりぼっちの子がこの漫画を読んで、明日には動物のお友達を捜しにいくだろうか。

でもそんな即効性なんてなくていいのだ。
ウミノさんの漫画は、台詞で素晴らしいことをたくさんたくさん語るので、心に残ったことを挙げると、どうしても台詞の話になってしまう。
でもこの漫画では、ウミノさんが執拗に「頼れ、きっと誰かが助けてくれる」と何度も何度もサブリミナルのように語りかけているのを感じる。

そして、助けてくれる相手も完璧ではないのだ。保護者なのに倒れて保健室に行ってしまったり、「教育に「育てる」がなければ放り出すのに」と愚痴ったりする程度の人なのだ。
だから、完璧でなくても、「頼りにされたり」「助けたり」する側に回っても全然構わないのだ。もちろん結果的に「何の役に立てなくても」大丈夫なんだ。「世界は結果だけで回っているんじゃない」んだから。

こんなこと、言葉だけで言われたら、理想論過ぎてきっと受け入れられない。
それでもウミノさんは、水滴が石を穿つように、7巻かけて、読んだ人すべてが腑に落ちるところまでもってきたのだ。
そして、まだ続いていく。

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